相続税対策でタワマン買うくらいなら素直に福岡中心部の不動産の方がよくないか

先日、顧問先の不動産を扱われている方より福岡市中心部の物件の相談を受けました。

 

福岡市の不動産市況は、地方圏としては異例なほど、旺盛な買いニーズに対してとにかく売り物がない状況が続いています。そして、都心部を中心に路線価と大幅にかけ離れた値段での売買の話をよく聞きます。

 

先日ご相談を受けた物件(テナントビル)について相続税評価額を試算してみた結果、相続税評価額が時価の約33%と、タワーマンション(タワマン)ほどではないにしろ、相続税評価額が時価と比べて大幅に低い結果となりました。

 

しかも、この物件は利回りも(福岡都市圏としては)それほど悪くありませんでした。築十年すこしのテナントビル物件で現況の表面利回りが6%台。テナントビルではあるものの、場所を考えると妥当と思える水準でしょう。少なくとも、相続税対策としての手垢が付いていない分、節税対策以外に説明のつかないようなプレミアム価格とはなっていない

 

これを、タワーマンション(タワマン)による相続税対策の落とし穴 -その2/2-の設例にあてはめますと、

 

タワーマンションでの相続税の節税効果が物件投資額の24%

 

であるのに対し、

 

この福岡中心部の不動産の相続税の節税効果は物件投資額の20%

 

 

相続税の節税効果の差は、物件投資額に対して4%しか違いません。

 

不動産での相続税節税というと、タワーマンションとなられる方もおられます。しかし、タワーマンションでなくてもそれに近い節税効果を得られる物件は他にもあります。

さらに、タワーマンションの価格が相続税節税対策の効果分プレミアムが上乗せされているということは、タワーマンションの節税効果が出なくなるような税制改正があった場合、アテにしていた節税効果が得られないことに加え、相続税節税対策のプレミアムが剥げることによるタワーマンションの資産価値の下落という二重の損失に見舞われるということでもあります。

やみくもにタワーマンションを探されるよりも、物件自体の経済的価値のことも考え、タワーマンション以外の物件も視野に入れられる方が賢明である。と、私は考えます。

タワーマンション(タワマン)による相続税対策の落とし穴 -その2/2-

前回、タワーマンション(タワマン)による相続税対策の落とし穴 -その1/2- にて、タワーマンションのプレミアムの件について取り上げました。

では、どの程度プレミアムを出して購入しても、相続税の節税効果でペイすることが出来るのでしょうか。

 

以下の条件で考えてみます。

 

前提条件

相続財産:現金2億円

相続人:兄弟2人のみ

 

(1)相続財産のうち1億円を使って、タワーマンションの最上階を購入。相続税評価額を2千万円に80%圧縮。

 

相続税評価額の圧縮額:1億円-2千万円=8千万円

相続税の節税額:8千万円×限界税率30%=2千4百万円

 

これだけで見ると、相続税を2千万円以上節税出来るため、2千万円のプレミアムを上乗せして購入してもペイしそうに見えます

 

 

では、タワーマンション以外の不動産を使って同じように節税をはかった場合はどうでしょうか?

 

(2)相続財産のうち1億円を使って、マンションを購入。相続税評価額が4千万円を60%圧縮。

 

相続税評価額の圧縮額:1億円-3千万円=7千万円

相続税の節税額:6千万円×限界税率30%=1千8百万円

 

(1)のケースと(2)のケースを比較すると、節税額は6百万円の違いとなります。物件の価格と比較すると6%分の違いでしかありません。タワーワンションだからとわざわざ有り難がってみても、10%もプレミアムがついてしまうと、節税効果分以上の高値買いとなってしまいます

 

 

タワーマンションによる節税方法は、リーマンショック前から富裕層を得意とする税理士事務所界隈では言われている、もはや手垢のつきまくった手法です。

 

割高な価格で買った物件を割高なまま売り抜けられれば良いですが、その保証がないことは認識しておくべきです。

 

 

今後のブログで取り上げようと思いますが、タワーマンションほどではないにしても、タワーマンション以外でも市場の取引価格と相続税評価額と乖離が激しい不動産は存在します。

 

いくらタワーマンションが節税対策になるとはいっても、その物件が節税効果以上に割高であれば意味がありません。節税効果と意味ではタワーマンションほど面白くなくても、節税目的の手垢のあまりついていない、節税目的でなくてもそれなりに経営が成り立つ物件を探された方がいいのでは、と私は考えます。

タワーマンション(タワマン)による相続税対策の落とし穴 -その1/2-

最近、世間一般でもタワーマンション(タワマン)を購入することで相続税を節税する手法が有名になってきました。

 

市場価値の高いタワーマンションの最上階や羨望の良い部屋を購入します。当然、市場価値は同じタワーマンションの他の部屋よりも高いです。

しかし、相続税評価額は、路線価と固定資産税評価額により画一的に評価されます。

しかも、タワーマンションは土地の持分割合が低く、資産価値の中でより相続税評価額が低く出やすい建物の価値のウエイトが高くなります。

結果、区分所有しているタワーマンションの部屋の相続税評価額は、その市場価格と比べて大幅に低くなります。

 

 不動産業者も、相続税増税を機会に相続税対策としてタワーマンションの販売に熱を入れています。

 

ところで、このタワーマンションによる節税方法、落とし穴はないのでしょうか?

 

このタワーマンションによる相続税対策、最大の問題点は、タワーマンションによる節税手法が有名になりすぎた点にあると私は考えます。

 

節税方法として知名度が出ると、当然、相続対策での買いニーズが高まります。結果、タワーマンションで相続税対策に適した部屋にはプレミアムが付くことになります。

 

では、タワーマンション購入時のプレミアムがどの程度であれば、相続税の節税効果でペイすることが出来るのでしょうか?

それについては、次回取り上げます。

相続税申告のための不動産の現地調査日和

昨日は、相続税の申告のために、相続対象の不動産の現地調査に行ってきました。

ゴールデンウィークのちょうど良い季候に晴天にも恵まれ、さらに対象となる土地のなかには田園地帯にあるものもあり、現地調査はさながらピクニック。まさに不動産の現地調査にもってこいの日より。

しかし、爽やかな気分にさせてもらえる田園地帯の現地調査ではありますが、農地と住宅地が入り交じっているような地区は、相続税を算出する上での不動産の評価方法をどのように行うかで税額がかなり異なってくることが多いです。そして、検討すべき事項も非常に多いです。

不動産がらみの相続案件は10人税理士がいれば10人評価額が違ってくる、などと言われていますが、その最たる例の一つと言えるかと。 もっとも、こういう悩ましい案件こそが資産税に強い税理士の腕の見せ所でもありますが。

ちなみに写真は、現地調査の移動の途中で撮影した麦畑です。北部九州の田園地帯では、二毛作を行っている農地を結構見る気がします。 IMG_0288-2

非課税措置利用の教育資金一括贈与と資産運用

直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置を利用して贈与を行う場合、贈与は金銭で行う必要があります。

そして、銀行預金や信託受益権、証券会社などで取り扱っている有価証券といった形での運用が制度上要求されています。

さらにインターネットで商品を調べる限り、現実問題としてこの制度に対応した商品を出しているのはいまのところ信託銀行以外だと一部の銀行のみのようです。

従って、いくら相続税が発生するような資産を持っている場合であっても、その資産の内訳が自社株や事業用資産、土地や建物などの不動産が中心で資金に余裕がないとこの制度は利用できません。この制度が出来たことによって、相続税・贈与税まで考慮した場合、一部不動産を売却されて売却資金を贈与に充てられたほうがより多くの資産を残せることになる方もそれなりに出てくるのではないかと思います。

例えばお孫さんが10人おられる方であれば、現預金であれば最大1億5千万円まで無税で贈与が出来てしまいます。たとえば福岡だと、1億5千万円を準備するために、まあまあのマンション1棟を売却するという選択肢も十分出て来かねないわけです。

お子様やお孫様の教育資金は、この制度を利用しなくても発生するものではあります。とはいうものの、教育資金が必要になるタイミングまで引き続き事業用資産や不動産という形で運用するか、この制度を利用するために一旦現金化して信託銀行などの対応商品で運用するかには非常に大きな違いがあります。

この制度を利用せずに既存の資産を持ち続けるか、この制度を利用するために資産の組み替えを行うか、場合によっては非常に悩ましい問題になるのでは、と考えています。

贈与税の非課税措置を利用した教育資金一括贈与と節税効果

今回の税制改正で、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置が平成27年12月31日まで(もっとも、将来的に期間が延びる可能性もありますが)の期間限定で導入されました。

この制度は、曾祖父、曾祖母、祖父、祖母、父、母といった直系尊属がひ孫、孫や子に対しして教育資金として一定の信託銀行、銀行、証券会社などに金銭を拠出した場合に適用を受けることができます。

では、これまでも教育で必要になった資金をたとえば曾祖父や祖母が出したからといって贈与税が課されていたか。実は、そういう訳ではありません。これまでも非課税でした。

今回の制度がこれまでとは違うのは、教育資金が必要になったそのときにではなく、まだ教育資金が必要でないタイミングで事前に贈与を行っても贈与税が非課税とされる点です。

とすると、結局は非課税になる資金を前に贈与するか後に贈与するかというタイミングの違いだけなので、一見この制度はあまり意味が無いのでは、と思われるかもしれません。

しかし、たとえば曾祖父がひ孫に対して教育資金を贈与することを考えた場合、たとえばひ孫が3歳のときに曾祖父が亡くなってしまうとすると、非課税で曾孫の大学の授業料といった将来の教育費用を出してあげることは、これまではできませんでした。

なぜなら、事前に直接ひ孫に贈与するとまだ必要になっていない教育資金に対するなんらかの財産を贈与することになり贈与税の対象となってしまい、また、教育資金が必要となるタイミングでひ孫の教育資金を出してあげるにしても、いったん祖父、祖母や父、母を相続なり贈与で介すことになり、一度は相続税または贈与税の対象となってしまうからです。

しかし、この制度を利用すれば、たとえばひ孫が1歳のときに大学や大学院卒業までの教育資金を一括して贈与することで、贈与税が課税されることなく将来の教育資金を出してあげることが可能になります。

次回も、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について別の切り口で取り上げたいと思います。

相続時精算課税と暦年贈与の有利不利について

暦年贈与よりも相続時精算課税を利用することをお勧め出来る場合についてなのですが、

1.これから生む収益+将来の評価額が、現在の評価額よりも高くなることが見込まれる資産がある場合
2.税務的な財産評価上の問題で、資産を生前のあるタイミングで贈与すると評価額が下がる場合
3.最終的により多くの財産を下の世代に残したい、という以外の理由で早めに多額の財産を移転させたい場合

のどれかに該当して、「はじめて」相続時精算課税を利用したほうが良い「可能性」が出てくる、裏を返せばこれらの条件に該当しない場合は相続時精算課税を利用する意味はないと考えています。

しかし、

1.については土地の値上がりが当たり前だった昔ならともかく、低金利下、そして高収益が見込める資産もこのご時世そんなには存在しない。とうことで該当するケースは限られる(インフレ傾向が出てくればまた別ですが)。
2.については、そうなるケースはあれど、これに該当するという結論に行き着くためにはかなり本格的な相続対策の検討が必要。
3.についても、このようなケースはレアケース。

そう考えると、簡単には成り立たない条件のどれかに該当してはじめて検討のスタート地点に立てる制度であり、お勧めできるケースは極めて限られると私は考えています。

たまたま相続時精算課税についての質問が続いたので話題にしてみました。

平成25年税制改正と相続税増税の影響 その2

平成25年の税制改正で、相続税の基礎控除が平成27年1月以降減額されることとなりました。

相続税は、相続する財産がある場合に必ず課税されるわけではありません。相続財産の相続税の評価額から基礎控除を差し引き、差し引いた後の評価額がプラスであればその評価額に対して課税がなされます。

つまり、相続財産の評価額が基礎控除の金額を超えていなければ、相続税は発生しません。

これまでは、基礎控除の額は5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)でした。これが、平成27年以降は改正以前の6掛けとなり、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)となります。例えば、相続人が3人の場合、基礎控除の額は8,000万円から4,800万円に下がります。

基礎控除の額の引き下げで注意しなければいけないのは、基礎控除額の引き下げがなくても相続税が発生していた人にとっても、基礎控除の引き下げにより相続税額が増加するということです。

例えば、相続人が3人で相続財産の相続税評価額が基礎控除の控除前で1億円であった場合、相続人が配偶者+子2人であれば、配偶者の税額軽減適用後で改正前の相続税額が100万円だったのが290万円に、相続人が子3人であれば、改正前の相続税額が200万円だったのが630万円になります。

このように、基礎控除の減額は、今回の税制改正によって相続税がはじめて発生するようになる方に限らず、これまでも相続税が発生する状況であった方にとっても十分に影響のある内容となっています。

平成25年税制改正と相続税増税の影響 その1

先月(2013年)3月29日に、平成25年度税制改正法案である「所得税法等の一部を改正する法律案」及び「地方税法の一部を改正する法律案」が、参議院で可決、成立となりました。

今回の税制改正で、相続税の基本的な部分で2つのポイントで増税となる改正がなされています。

1つが、二億円を超え三億円以下の金額に対する税率が40%から45%に、六億円を超える金額に対する税率が50%から55%となる、高額な一部金額部分に対する税率のアップです。

そしてもう1つが、基礎控除の減額です。

うち、前者の税率アップについて結論から申し上げますと、ここでいう「金額」(金額が何を指すかという説明は今回は省きます)が二億円を超える方は極めて限られます。おそらく、福岡国税局管内(福岡県、佐賀県、長崎県)でこの改正の影響を受ける相続の件数は、多めにみても年30件もいかないのでは、と思われます。

後者の基礎控除の減額ですが、こちらは相続税の課税額が発生するラインが下がることになります。従って、今まで相続税が発生していた人全員に加え、今までであれば相続税が発生しなかった人も影響を受けることになります。

基礎控除の減額の具体的内容と相続税額の影響については、次回以降の更新で触れていく予定です。

(追記) ちなみに、いつからこの改正が適用されるかですが、平成27年1月1日より適用です。よく聞かれるので追記しました。